二人目の子供を生んでから痩せない。
体重ばかりが増えて、今や60kgの大台に乗ってしまった。
パートの帰りに保育園に子供を迎えに行き、家へと急ぐ。
家に戻ってからは子供に妨害されながら、晩ご飯作りにお風呂の用意。毎日がクタクタだ。
夕食の直前に夫が帰宅した。
私は食器を用意し、ご飯をよそう。その間、夫は子供の面倒を見ることもなく、スマホでのゲームに熱中している。
トンカツを一切れ食べると、夫が笑いながら、
「豚さんが豚食ってるー」
子どもも一緒になって、
「豚さんが食べてるー」
と笑っている。
最初の頃はもうやめてよと怒っていたが、今ではもう諦めた。
「豚で悪かったですね。痩せなくて申し訳ございません」
「運動したり、米や肉食うのやめたら痩せるんじゃないの? それか、隠れて菓子ばっか食ってんだろ」
糖質制限も肉断ちもしたのだ。
だが、痩せなかった。
「カツ食うからだめなんだよ」
「痩せたら、褒めてくれる?」
「お前が痩せるなんて無理無理」
お菓子だってそんなに食べてない。職場で出されたものを付き合いで食べる程度で、人並みの量だと思う。
太っている私が悪いのだろう。
その後の食事は味を感じず、ただ胃袋に流し込む時間となった。
夕食後は後片付けを一人でこなし、子どもと一緒に風呂に入る。
夫は一人でゆっくりと風呂に入り、寝る直前までスマホに没頭する。
私は一緒に暮らしていても一人だ。子どもが目の前にいても夫が目の前にいても寂しい。
これからも豚と罵られるし、家族がいるのに寂しいのも変わらないのだろう。
パート先にアルバイトとして、大学生の男の子が入ってきた。将来は美容系の仕事につきたいのだそうだ。
ある日、男の子が私に言った。
「◯◯さんって元々の顔がいいから、痩せたらすごい美人になりそう」
「ちょっとそれってセクハラよ」
同僚が言うと、男の子は申し訳無さそうに謝った。なんだかその仕草がすごく可愛い。
「いいのよ。ねぇ、もし私が痩せたら、褒めてくれる?」
なぜだろう、夫に言ったことをくり返したのは。
男の子は、
「もちろん」
「それじゃあ、ダイエット頑張っちゃおうかな」
「じゃあ、痩せたら、化粧してあげます。僕は将来、メイクアップアーティストになりたいんですよ」
「それじゃあ、痩せたら化粧してもらおうかな」
「もちろんですよ。きれいに化粧してあげます。ダイエット応援してます」
「ありがとう」
痩せたら、褒めてもらえるかもしれない。
実際はそんなことはないはずだ。彼は大学生のアルバイトでいつ辞めてもいいわけで、私が痩せた頃には彼は辞めているだろう。
だけれども、そんなあるかないかわからない不確かな未来が私の中で小さな希望として灯っていた。
家族には求められない温かな何かが心のなかにあって、心地が良い。
早速、ネットで痩せそうなレシピを検索して、見つけたのが材料はキャベツ半玉と鶏むね肉一枚だけ。ヤバいウマさの【超痩せキャベツ鍋】 - YouTubeだ。
材料も鶏むねとキャベツだけと少ないし、簡単に作れそうだ。
キャベツ半玉(500g)の芯を取り、
ざく切りにしたものをフライパンに放りこんでいく。
そして、水700ml、酒50ml、かつおぶし2g、鶏ガラ大さじ1と1/2、塩小さじ1/3を入れて、火にかけ強めの中火でフタをして煮ていく。
子どもがママーと叫んだので、いけないことなのはわかっていたけれど、ビスコを一枚渡してしまった。これで食べている間は大人しくなる。
帰宅直後にビスコを食べているのを見た夫は私に、
「おい、飯の前に食わせるなよ」と怒るが、私はそっけなくごめんとだけ言った。
子どもが再度、私の下に来て、作業を邪魔しようとしたから、「あっち行って」と怒って追い払おうとすると子どもは大泣きだ。あー、面倒。
夫はスマホのゲームに集中していて、鳴き声にすら気づいていないくらいに画面を見つめている。
横で泣いている子どもを宥めつつ鶏むね肉1枚を縦半分に切り、
そぎ切りにし、
塩二つまみと薄力粉大さじ2と小さじ1を揉み込む。
キャベツに火が通ったら、
鶏むね肉を入れて、火が通るまで煮る。
子どもの分を取り分けてから、黒胡椒を振り、オリーブオイルを回しかけた。
鶏むね肉は薄力粉のおかげかしっとりとしていて柔らかい。
鶏ガラの味がしっかりと感じられて、オリーブと黒胡椒の風味がとてもおいしい。
夫も子どもも鍋をおいしそうに食べている。
私はいつか痩せて化粧をしてもらうことを夢見て、キャベツと鶏むね肉を黙々と口へと運んだ。
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